2008年07月05日

第3回  母の支え

第3回  母の支え

クローン病と宣告された後、流れ出る涙を止めることができませんでした。
私とは無縁だと思っていた中心静脈栄養の管を入れる手術中、看護師さんが涙を拭いてくれたのを覚えています。一緒にほろりと涙を流してくれたのも覚えています。
しかし、その時、隣にいて病気の宣告を一緒に聞いた母の顔は全く覚えていませんでした。
その後、どうやって母が病室を出たのか、何と言って別れたのか全く記憶にないのです。

その日からは肛門周囲膿瘍の痛みと絶望の暗い世界でただ、ただこれからの自分を考えることだけしかできませんでした。
その時に、家族がどんな思いで過ごしていたのかなど考える余裕はなかったのです。

1週間ほどして気持ちも落ち着いた頃、母と病気を宣告された日のことを思い出しながら話をしました。
「あの後ね。我が家の夕食はとても暗くて、食事どころじゃなかった。ご飯なんか作って食べる気にもならなかったの。でも、やっとご飯作ろうって、ちゃんと食事ができるようになったのよ。」

胸がつまる思いがしました。
家族は変わってやれない思いやこれからの私の人生のことを考えてどれだけ胸が痛んだことでしょう。
それを初めて知り、私がどれほど家族に大切にされていたのかを痛いほどに感じました。

今では、クローン病の状態も良く、普通と同じように元気に過ごすことができます。それは、理解ある家族の優しさ、特に母親の大きな支えがあるからだと思っています。
つらい食事療法も楽しそうにメニュー開発をしてチャレンジしてくれる母。
病気の不安とつらさに凹みそうになっても、全て理解してくれた上で弱い私を叱ってくれます。

クローン病になってしまったことは決して喜ばしい事実ではありません。ならないのならばそうであって欲しかったです。
しかし、なってみて分かったことがたくさんあります。
「ありがとう」
この言葉が溢れていました。今まで見えなかったありがとうの気持ちに気づけたのです。

お母さん。ありがとう。
ニックネーム クローン病の栄養士 at 23:20| Comment(0) | コラム

2008年06月10日

第2回  失ってから気づくもの

第2回  失ってから気づくもの

みなさんは、今までに自分自身の体について考える機会があったでしょうか?健康な体に感謝をしたことはありますか?

私がクローン病だと診断されるきっかけは「肛門周囲膿瘍」という症状からでした。「肛門周囲膿瘍」とは肛門のあたりに膿が溜まり痛み、発赤を伴います。私の場合は痛みに耐えられず、歩行も困難になったほどでした。そして、微熱だった体温が高熱に変わり、全身倦怠感と痛みとつらさに涙が止まらなかったことを覚えています。

病院を受診し、検査のための入院が決まり、抗生物質の点滴を始めました。1週間ほど点滴と続けると熱も下がり、痛みも軽減してきました。その時はそれでもう治るものだと考えていました。

しかし、検査の前に点滴をやめたところ、立て続けに40度近い熱が出始め、治まっていた痛みもさらに強くなりました。大腸検査をするために大量の下剤を飲み、何度となくトイレに行きました。初めての経験と不安と痛みと脱水症状とが入り交ざり、検査の直前は意識が朦朧としていました。

それでも、何もないことを願っていました。

大腸検査の痛みと麻酔の影響で薄れゆく意識の中、「クローン」という言葉を耳にしました。
幸か不幸か、管理栄養士の免許を持っている私にはそれが何を意味するのか容易に想像できました。
「一生、治らない」
看護師さんの手を強く握りながら、溢れ出る涙を止めることはできませんでした。
その後は、どうやって検査が終わって、病室に戻ったのか全く覚えていません。

その日から、絶食の生活が始まりました。
不思議と「食べたい」という気持ちは1度も起きませんでしたが、食べたいものを食べる自由を失ってしまったことで、生きる気力さえも無くしてしまいました。
管理栄養士でありながら「食べる」こと、「消化・吸収される」ことがこんなにも素晴らしいことだったのだと、失ってから初めて気づきました。

風邪をひいたときに、健康の大切さを知る、とよく聞きます。風邪は治ります。しかしその「気づき」はずっと心に留めておいて下さい。

生活習慣病になる人が増えてきていますがなってからでは遅いのです。まだご自分で病気になるのを止められるのです。健康である体を大切に思いやっていって下さい。

お願いします。
ニックネーム クローン病の栄養士 at 23:14| Comment(0) | コラム

2008年05月05日

第1回 幸せの1口

C's Kitchenを始めて5ヶ月になりました。

そろそろブログを充実させていこうと思っています。
そこで少しずつではありますが不定期にコラムを書いていくつもりです。

以前、違うコラム用に管理栄養士として書いたものなのですが時期が合わずに公表されませんでしたのでこちらで皆様のお目にかけたいと思います。

第1回は「幸せの一口」

みなさんは、食事をして涙が出たことがありますか?食べられることに幸せを感じたことがありますか?
私は2006年11月、クローン病を発症し、1ヵ月半の入院生活をしました。クローン病とは、発症の原因も根治の治療方法も見つかっていない、国の難病に指定されている病気の1つです。消化管(口、食道、胃、腸、肛門)すべてに潰瘍ができる病気で、食べ物を食べると痛み、発熱、下痢等の症状を伴います。そのため、1ヶ月間の絶食生活をしました。
病気による食欲不振のせいもあり、その1ヶ月の間に私の体は食事を食べたいと思う気持ちを忘れてしまっていました。
しかし、食事開始の日のことです。重湯と具なしのスープ、飲み物だけの流動食なのに、目の前の食事に心が躍るような気持ちになりました。そして、重湯をスプーンに取って口に運んで味を感じた瞬間、涙が出ました。食べることがこんなにも幸せなことなのだと始めて感じました。
そして、食事を始めてからつらかった症状の1つ1つが劇的に改善されていくのです。食事から得られる治癒力に驚き、食べることは本当に体にとって必要なことなのだと実感しました。
ただ、食べる喜びを感じたのもつかの間、すぐに食事制限という現実がありました。症状を悪化させないためには食事コントロールが必要なためです。食事制限はかなり厳しく、食べたいものを選ぶ「自由」がなくなりました。食事制限の生活は時々、泣きたくなるほどつらくなることがあります。それでも私は、食べることが大好きです。
それは「食事」の中に、おいしさや楽しさ、人との触れ合いがあるからです。食べ物と自分の体と人の心とコミュニケーションを取ることで、体も心も豊かになるのだと思います。
ぜひ、食べることで健康な体を大切にしていってください。
ニックネーム クローン病の栄養士 at 21:03| Comment(2) | コラム